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仙台高等裁判所 昭和39年(う)252号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一月および罰金一、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

原審および当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

職権をもつて調査するに、原判決は罪となるべき事実として原判示の如き賍物故買の事実を認定し、次にこれに対する証拠の標目として原判示の証拠を挙示した後「前科」という標題のもとに、(一)昭和三十三年七月七日会津若松簡易裁判所で賍物運搬罪により懲役四月及び罰金千円に処せられ当時右刑の執行を終わる、(二)同三十六年四月十日会津若松簡易裁判所で賍物故買罪により懲役八月及び罰金千円に処せられ当時右刑の執行を終わると判示し、これを証拠により認めた理由はなんら示していない。原判決が掲げた右二ケの前科とするもののうち、(二)については本件の犯罪日時が昭和三三年一二月二九日であることおよび法令の適用のところで刑法四五条後段(前示(二)の前科と併合罪)と判示しているところからして、同条にいう確定裁判を経た罪と表示すべきであつて、これを前科と表示したことは誤りであると思われるので、この点はしばらくおき、(一)の前科が累犯にかかる前科であることは判文上明らかである。そこで、かような累犯加重の事由となる前科についてこれを認めた証拠を全く挙示していない原判決の理由の当否について按ずるに、累犯加重の事由となる前科は、刑訴法三三五条一項にいわゆる罪となるべき事実ではないが、かかる前科の事実は、刑の法定加重の理由となる事実であつて、実質において犯罪構成事実に準ずるものであるから、これを認定するには、証拠によらなければならないことはもちろん、これが証拠書類は刑訴法三〇五条による適法な証拠調をなすことを要するものと解すべき趣旨(最高裁判所昭和三二年(あ)第一〇二九号同三三年二月二六日大法廷決定、最高裁判所刑事判例集一二巻二号三一六頁参照)にかんがみ、判決の理由においてこれを認定した証拠の挙示を必要とするものと解するのを正当とする(これに反する最高裁判所昭和二三年三月三〇日判決、同昭和二四年五月一八日判決はいずれも旧刑訴法の解釈に関するものであつて、新刑訴法に関する前記最高裁判所大法廷の判例があらわれた今日においては、もはや維持さるべきではない)。そうすると、原判決にはこの点において判決に理由を附さない違法があることになり、原判決は破棄を免れない。≪中略≫

よつて、刑訴法三九二条二項三九七条一項三七八条四号により原判決を破棄し、控訴趣意(量刑不当)に対する判断を省略し、同法四〇〇条但書により当裁判所において更に次のとおり判決する。

原判決中「前科」と題する部分を全部削り、これにかわり、次のものを加える。

一、累犯にかかる前科

被告人は、

(一)  昭和二四年七月八日福島地方裁判所若松支部で強盗賍物運搬罪により懲役六年及び罰金五千円に処せられ(同月二三日確定、昭和二七年四月二八日減刑令により懲役四年六月に減軽、昭和二八年五月二六日仮出獄、昭和二九年一月七日刑終了)

(二)  昭和二九年一一月一五日若松簡易裁判所で窃盗罪により懲役四月未決勾留日数中一五日算入に処せられ(同月三〇日確定昭和三〇年二月二七日刑終了)

(三)  昭和三三年七月七日会津若松簡易裁判所で賍物運搬罪により懲役四月及び罰金千円に処せられ(同月一五日確定昭和三三年一一月一二日刑終了)

当時それぞれ右懲役刑の執行を受け終つたもので右は被告人に対する前科調書と電照の渡部繁喜の刑執行状況回答と題する書面の記載によりこれを認める。

一、確定裁判を経た罪

被告人は昭和三六年四月一〇日会津若松簡易裁判所で賍物故買罪により懲役八月及び罰金千円に処せられ右裁判は同月二五日確定したものであつて、右は被告人に対する前科調書とこの事件に関する判決謄本の記載によりこれを認める。

原判決の確定した事実を法律に照らすと、被告人の原判示の所為は刑法二五六条二項罰金等臨時措置法二条三条に当るところ、被告人には前記前科があるので刑法五六条一項五七条五九条により懲役刑につき累犯の加重をし、なお前記確定裁判を経た罪と本件とは同法四五条後段の併合罪であるから同法五〇条により未だ裁判を経ない本件の罪について処断すべきであるところ、本件は前記確定裁判を経た罪の前である昭和三三年一二月二九日に行なわれた古い犯行であつて右確定裁判を経た罪の余罪であるところ、本件の起訴は右確定裁判を経た罪の刑の執行も終つた後の昭和三九年五月六日に至り、ようやく行なわれたものであることその他被告人の現在の家庭事情、年令、生活状況等を総合考慮し、前述の刑期および金額の範囲内で被告人を懲役一月および罰金一、〇〇〇円に処し、右罰金を完納することができないときは同法一八条により金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべく、原審および当審における訴訟費用については刑訴法一八一条一項本文を適用しその全部を被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事斎藤寿郎 判事小嶋弥作 杉本正雄)

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